11月10日(月)、飯塚花笑監督と中川未悠が、映画公開を前に日本外国特派員協会記者会見に登壇。

会場には大勢の外国人記者が来場。この日集まった記者は、渋谷区のパートナーシップ制度導入をはじめとした、日本のLGBTQ+コミュニティについての関心も高いようで、ふたりにはそうした社会的な質問も多く寄せられた。

そんな中で、日本のLGBTQ+コミュニティについて今後オープンになっていくとおもいますか?という質問が上がると、飯塚監督は「昨今、メディアの中で性的少数者の存在が取り上げられる機会が増えてきましたが、その一方でバッシングや、バックラッシュ(揺り戻し)的な動きがあるというのも事実です。そういった中で、これはいち個人としての願いになりますが、わたしたちはエンターテインメントの分野に関わっている人間なので。非常に肯定的に、それはそのいい部分だけを描くのではなく、問題提起もしていくべきなんじゃないかなと捉えています」と現状認識について返答。
そして「テレビでもLGBTQ+という言葉であったり、多様性という言葉をよく耳をするようになりました」と語る中川も、「わたし自身、友人や家族から『テレビでこういう特集をやってたよ』とか。LGBTQ+の人たちを特集する番組について聞く機会も増えているので。どんどん進んでいると感じます」と語る。
本作の舞台となる1960年代と比べて、LGBTQ+をめぐる環境は変化を続けてきている。そんな中で「LGBTQ+当事者の監督、キャストによってつくられた本作が今後、どのような影響を及ぼすと思うか?」という質問も。それに対して、本作がシネコンやミニシアターなど、全国70館以上で公開される規模の商業映画でありながらも、当事者の手によってつくられた作品である、という本作の意義を強調した飯塚監督。
「わたし自身、いち当事者として映画を観る時に、幼少期から映画の中に自分のロールモデルとなるような存在を探してきたんですが、その時にどうしても当事者性を感じられなかったり、表現の違和感というものをずっと感じていました。ですから今回の作品が当事者による表現の見本になる、というと大げさかもしれないですが、こういったつくり方があるよというような、ひとつの成功体験になればうれしいなと考えております」とコメント。さらに「そのためにはヒットしないと成功にならないので、ぜひ皆さんにもご支援していただきたいなと思っております」と呼びかけ会場の笑いを誘う一幕も。

また、本作の裁判シーンにおいて、主人公のサチが証言台に立ってまっすぐカメラに向かって証言しているところは、劇中に登場する裁判官をはじめとした人々に向けて話しているのと同時に、「実はスクリーンを見つめる観客に対しても語りかけていたのではないか?」という記者からの指摘も。
その鋭いコメントに思わず笑顔を見せた中川は、「わたしはお芝居が初めてだったので、カメラを向けられるということがものすごく恐怖でした」と前置きしつつも、「でも脚本をいただいて、あのセリフを読ませていただいた時に、やはり自分と重なる部分がたくさんありました。あれはサチのセリフではありますが、中川未悠自身の言葉としてもしっかりと伝えたいと思いました。この映画が何かを変えるきっかけになると思っているので、もちろんカメラに向かって言っているんですが、スクリーンの向こうで観てくださっている方に向けて、わたしとサチの思いを投げかける、という気持ちで撮らせていただきました」と語った。

さらに今後、LGBTQ+の人々が暮らしやすくなるために「どんな法律があれば良いと思うか?」という質問も。それにはまず飯塚監督が「法律が新たに生まれるというよりも、今、わたし自身が問題点として思っているのが、性同一性障害の特例法です。これは肉体の一部を変えないと戸籍が変更できないというような要項になっているのですが、この点に関しては、いち個人としても、なるべく早く改善をしてもらいたいと思っています」と返答。
続く中川も「わたしの場合は、自分の体に男性器があるということが違和感だったので。性別適合手術をして戸籍を変えるところまでしているんですが、それはあくまで個人のアイデンティティなので。手術をしなくてもいいという方もいらっしゃいますし、個人の意見を尊重した法律というか、決め事ができたらいいなと思います。もちろん身体を変えたくても、持病があったり、何らかの理由で性別を変えられないという方々もいらっしゃるので。そうした方々にも寄り添うような形の法律ができれば、皆さんがより良く過ごしやすくなるんじゃないかなと思っております」。
中川は「今後も俳優業を続けていきたいと思いますか?」と問われると、「わたしはこの作品を通じてお芝居の難しさや楽しさに気づいたので、今後も続けていきたいと思います。性的マイノリティの方々はコメデイのように扱われていたり、笑いと捉えられてしまう事もあるので、わたし自身が俳優業を続けてることによって誰かの光になれたらいいなと思いますし、そういった悩みを抱えている方々から目指そうと思ってもらえて世の中も変わっていったら良いと思います。」と答えた。
本作の裁判シーンでは、裁判官がサチに「あなたは幸せですか?」と問いかけるシーンがある。そこでなんと答えたのかは、映画を観ていただきたいところだが、そのセリフに込めた意味を質問された飯塚監督は、「この一言のために映画を作ったと言っても過言ではありません」と力強く語り、「わたし自身、女性として生を受けて。とにかく必死に生きやすい環境を求めて男性に移行しました。しかしその結果、今度は男性という鎧を着なければならず、苦しみましたし、さらにトランスジェンダーらしさという規範にも苦しみました。結局、自分はどこに着地すれば幸せになれるのか、という疑問を抱えて今も生きています。その中で見つけた答えは、僕自身の幸せは、僕自身のものでしかないということ。それは一般的に思う幸せとは少し違った形かもしれない。でも幸せです。そのメッセージを伝えたくてこの映画をつくりました」。
一方、このセリフについて中川は「あの言葉を聞いた時、きっと皆さんひとりひとりが『幸せって何なんだろう』と考えさせられたと思うんです」と切り出すと、「その答えはわたしにもまだ見つかっていません。きっと幸せは人それぞれで、だからこそ個性や自分らしさがあると思うんです。あのセリフに明確な答えはないかもしれませんが、皆さんの心に寄り添ってくれる質問だと思います」とコメント。その上で「もし今、幸せですか? と聞かれたとしたら、『ブルーボーイ事件』を皆さんに見ていただけることが、私の幸せです!」とにこやかに会場に呼びかけた。
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